自己株式取得時の仕訳、そして会計と税務の違いについて

自己株式の取得。

大手企業のみならず中小・小規模企業においても、日常的に行われるようになりました。

そこで注意したいのが、自己株式の「取得」に伴う税務上の取り扱いです。

思わぬ追徴課税を受けないように、知識の備えをしておきましょう。

 

※事務所のスタンディングデスク

 

 

目次

そもそも自己株式って?

自己株式とは、会社が発行した自らの株式を取得した場合の当該株式を言います。

自己株式の取得に関しては、平成13年6月商法改正以前は、原則として禁止されていました。

諸々の理由(会社債権者を害する、株主平等の原則に反する、などなど)により禁止をされていた訳ですが、多くの企業のニーズ(敵対的買収の防衛策、機動的な組織再編の実施、などなど)により、平成13年6月商法改正で自己株式の取得は、原則として株主総会の決議を得ることにより可能となりました。

いわゆる金庫株の解禁となります。

ただ、ここで当然会計基準や適用指針も整備される訳ですが、おなじみ、税務上の取り扱いとの乖離も発生します。

今回は「自己株式の取得時」における、会計と税務の取り扱いをまとめます。

 

会計上の取り扱い

会計上、取得した株式は取得価額をもって「純資産の部」の「株主資本」から控除することになります。

会計上は、自己株式の取得は資産の取得ではなく、会社と株主の資本取引であり『資本の払戻し』と考えています。

 

税務上の取り扱い

平成18年度の税制改正により、税務上自己株式を取得した場合ついて、資産として認識せず、会計と同様『資本の払戻し』として、「資本金等の額」および「利益積立金額」を減算することとされました。

会計税務、いずれも取得価額相当額の ”純資産が減る” ことになりますが、税務の取り扱いで厄介なのは、 “払った金銭の額が、一定の算式で計算した金額を超える場合は、その超えた部分は配当とみなすよ” という取り扱いがあるところです。

つまり本来の資本部分相当額を超えて、株主等に金銭を支払って自己株式を取得した場合、その超えた分は配当金になるため、会社が金銭支払時に所得税を源泉徴収しなくてはなりません。

 

  • 「資本金等の額」および「利益積立金額」の具体的な処理方法は、下記の通りとなります。
 パターン  処理方法
取得資本金額=対価の金額  取得資本金額(注1)を「資本金等の額」から減算 
取得資本金額>対価の金額  対価の金額を「資本金等の額」から減算 
取得資本金額<対価の金額  取得資本金額を「資本金等の額」から減算

・対価の金額と取得資本金額との超過額を「利益積立金額」から減算 (注2)

(注1)  取得資本金額とは、取得した自己株式に対応する資本金等の額をいいます。(下記の算式参照)
(注2)「利益積立金額」の減算額は『みなし配当』となるため、源泉徴収や株主への通知が必要となります。

 

  • 取得資本金額の計算方法は、下記の通りとなります。
取得資本金額  

取得直前の「資本金等の額」  × 取得する自己株式数字/取得直前の発行済株式総数

 

 

会計と税務、それぞれの仕訳

ではここで具体的に例をあげて、仕訳を考えてみます。

【例】
<純資産の部の状況>
・非上場会社
・資本金                     30,000,000円(税務上の「資本金等の額」)
・その他資本剰余金   10,000,000円(税務上の「資本金等の額」)
・利益剰余金              50,000,000円(税務上の「利益積立金額」)
・発行済株式総数       100,000株

<取得した自己株式の状況>
・取得した自己株式数    1,000株
・取得価額                         600円
※市場取引ではなく、株主合意による取得である

【仕訳】

①会計

(借方)自己株式             600,000(※1)     (貸方)現預金     559,160
                                                                                  預り金       40,840(※2)
(※1) 取得価額600円/株 × 取得自己株式数1,000株 = 600,000
(※2) 下記②のみなし配当200,000 × 20.42% = 40,840

 

②税務

(借方)資本金等の額     400,000(※1)    (貸方)現預金     559,160
              利益積立金額     200,000(※2)                   預り金       40,840
(※1) 資本金等の額40,000,000 ÷ 発行済株式総数100,000株 × 取得自己株式数1,000株 = 400,000
(※2) 対価の額600,000 – 取得資本金額400,000 = 200,000(みなし配当)

 

③申告調整

(借方)資本金等の額     400,000       (貸方)自己株式  600,000
              利益積立金額     200,000                   

 

別表の記載方法

上記の例に伴う法人税確定申告書の別表は、次の通りとなります。

① 別表四:所得の計算に関する明細書(一部を抜粋)

区分 総額 処分
留保 社外流出
当期利益又は当期の欠損 配当 200,000
その他

 

② 別表五(一):利益積立金額の計算に関する明細書(一部を抜粋)

区分 期首現在利益積立金額 当期の増減 差引翌期首現在利益積立金額
資本金等の額 200,000 △200,000

 

③ 別表五(一):資本金等の額の計算に関する明細書(一部を抜粋)

区分 期首現在資本金等の額 当期の増減 差引翌期首現在資本金等の額
自己株式 600,000 △600,000
利益積立金額 200,000 200,000

※別表四、別表五(一)は、その他にも複数調整方法があります。(結果は同じ)

 

まとめ

自己株式に関しては、今回の「取得」の他にも「処分」「消却」といった論点もよく出てきます。

今回の「取得」の場合には、取得する側の会社だけでなく、金銭等の支払い先である株主にも影響が出てくる論点ですので、もし今回のような『みなし配当』が生じうる可能性があるのであれば、慎重に検討をしていく必要があります。

自己株式に関する記事も、引き続き随時アップしていきたいと思っています。

 

 

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【編集後記】

NHKの西郷どんが面白い!

今だから冷静に考えられますが、情報がほとんどなく外国の脅威がどれほどか分からない、そして占領される可能性もあった幕末の状況で、あの国に対する想いと行動力には頭が下がる一方です。

島津斉彬、そして西郷隆盛を中心とした幕末志士は、諸外国の脅威があったから誕生したのか、それとも幕府衰退時期による必然なのか、それは分かりません。

江戸初期から中期にかけて尊王思想はあちらこちらで(ひっそりと)誕生していましたが、それらの小さな芽が一気に花開いたのが、明治維新です。

どうしても派手な活躍をした志士たちが注目されてしまいますが、その志士たちに多大な影響を与えた名著を残した儒学者や思想家も多くいたことは確かです。

ただ、戦後、GHQが日本を占領した際に、自ら都合の悪い書物を焚書したことにより、本来日本人が読まなくていはいけないそれらの名著が未だ日本人にすら知られていない、というのが現状です。

日本の日本たる所以、というのを学ばないと、三島由紀夫氏が言った通り「このまま行ったら『日本』はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう。」という予測そのままでなっていくかもしれません。

外国人に自国のことを誇りを持って説明できる。そんな日本人になりたいです。

 

 

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この記事を書いた人

1978年9月 茨城県水戸市生まれ、埼玉県春日部市育ち。
東京都渋谷区在住。愛犬は4歳、娘2歳。
趣味は、野球(毎週日曜日)、愛犬の散歩。

雇われない・雇わない生き方である「ひとり税理士」として活動しています。

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